助手席のドアが開けられ、アタシはゆっくりと車に乗り込む。群のこういう所は、ウチの小舅秘書にも見習わせたいくらいだ。アイツは『ドアくらい自分で開けられるでしょう。お嬢様が非力な女性だとは思えませんが』と憎まれ口を叩きやがった。その三日後、他の部下達の嫌な視線に耐えきれなくなったらしく『すみませんでした』と渋々謝ってきたけれど、アタシは呆れて『良いわよ、もう記憶になかったから』と返したのだった。



「……群の車に乗るのは二回目ね。懐かしいわ。」

「そうだったな。スペインに車を残しておいた甲斐があったぜ。初めては確か、三ヶ月前だったか?」

「パパが余計なことを言ったせいでああなったのよね。『将来を共にする仲だ、乗せてもらいなさい』って、意味が分からなかったもの。」



 二人して笑いを堪えきれなかった。「二人共、俺を気に入ってくれてるからな」と得意げに言った群を、「ママは『手が早そうだから気を付けなさい』とも言ってたわよ」と諌めてみる。「間違いではねぇな」と呟いた運転席の男は、クッと喉を鳴らして笑った。群はチェーロファミリー専用の空港近くに愛車の一台を残している。アタシのため、らしい。