『……分かったよ。迷惑だったんだろ、その時は。お前あからさまに嫌な顔したもんな。でも、今はまんざらでもねぇんだろ?』

『あら、ここで言わせる気?それではあまりにも“風情”がないと思うのだけど。』

『……やっぱり日本人だな、お前。で、相変わらず強情で口が上手い。』

『アナタの方が一枚上手よ。何度丸め込まれたか分からないわ。』



 群のスペイン語は、また少し上達している。日本語に切り替えない辺り、彼も相当な強情者だと思う。アタシも日本語話者なのだから、先程のように彼と対等に話せるのだ。彼はプライドが高いが、時に優しい。きっと部下達に配慮してくれているのだろう。



『ところでアナタ、どうしてここに居るのかしら?聞きそびれてたけど、そろそろ教えてくれないと。』

『いや……お前の親父さんに用があってな。屋敷に向かう途中に見慣れた車が見えたんで寄ってみたら、お前らがここに居たって訳だ。』



 やっと謎が解けた。それなら一緒に屋敷に来れば良いと言えば、そのつもりだと躊躇いなく返された。神出鬼没なアタシの婚約者を“煙(ウモ)のようだ”と誰かが言っていたが、確かにそうかもしれない。