アタシは、誰かを失うためにボスになったのではない。それなのに。イリスの時といい今といい、どうしてアタシの大切な人は、自分の命を犠牲にしてまでアタシを守ろうとしてくれるのだろう。

 感情の沸点が高まり、落涙へのカウントダウンが始まっているのが分かった。二度も敵や部下の前で失態を見せる訳にはいかないので、必死に堪える。そんな時、群からの答えが返ってきた。



「……大事だからに決まってんだろ?惚れてる女も守れねぇで、何が男だよ。
それに俺は、もう誰も失いたくねぇんだ……これが、俺がボスになった理由だからな。」



 ――苦しい筈なのに、しっかりとした語尾でそう言った群。彼の優しさと強さを直に感じることの出来るその台詞がアタシの涙腺に訴えかけてきたから、カウントが0になってしまった。

 雫が瞳から流れ出て、ポタリ、ポタリと群のスーツを濡らす。彼はそんなアタシを見て、穏やかに笑う。



「俺は死なねぇよ……フェルナンドさんとも約束したからな。生きて、お前と共に歩いていくって。」



 伸びてきた手が、こぼれ落ちた涙を指先で拭ってくれる。あの時の会話を、彼は覚えていたのか。そう思ったら、また泣けてきた。