“どうしてアナタがここに居るの？”――その一言が出てこない。口を開けても、感情が言葉になってくれないのだ。アタシを含め、誰もが深海に眠る物言わぬ貝のようになっている。



「未来……怪我はねぇか……？」



　弦が切れかけているコントラバスのトーンが、弱々しくアタシの名前を紡ぐ。『喋るんじゃない！』というルッツさんの警告に、群は耳を貸さない。台詞が日本語だったということは、他の言語に訳す余裕すらなかったということだろうに。アタシが小さく頷くと、彼は微笑を浮かべて再び喋り始めた。



「無事なら、良いんだ……手遅れだったらどうしようって思ったから、な……」



　痛みに耐えるかのように、記憶を途切れさせたくないかのように、歯を食い縛る群。それを見ていたら、酷い悪寒がして。口を開かずには居られなくなった。



「……どうして来たの!!何でアタシをかばったのよ!!」



　――とうとう感情が爆発した。ボスとしてのプライドは何処かへ消え去り、体の震えが止まらない。頭の中は他のことを考える余地がない程、目の前で起きたことに対する怒りや悲しみで埋め尽くされていた。