――間合いを取ったかと思えば距離を詰め、拳が交わればまた離れる。相手の後ろに回り込もうとすれば見切られ、相手に背後を取られそうになれば即座に反応する。目で追うのも忙しい展開だ。

 何度も絶好のチャンスを狙っているのだが、なかなかその時が訪れない。向こうは与える気など更々ないようだ。

 いつまで続くか分からないから、みんなの様子を窺うこともできない。伸びてきた相手の腕を肘で打ち消した時、奴から微かな殺気を感じた。用心を強めた刹那、奴の反対の手がポケットへ伸び、先程アタシが撃ち落とした殺傷能力のある武器をもう一つ取り出す。瞬間的に奴から離れたけれど、弾がこちらに向かってきている。

 よける暇は、ない。



『ボス!!』

『お嬢様!!』

『何やってんだボス……!』



 ――最後に聞こえた消えかけのグレイの声で、自分は死ぬかもしれないが、フランシスコを従わせるまでは死にたくないと強く思った。この攻撃を受けても、奴の思い通りにはなってやらない。

 心に誓った、その瞬間だった。アタシの目の前に、突如黒い人影が飛び出してきたのは。