自分の名前を否定するようなことを何度願っても、この結末は変えられない。やっと駆け付けた医療班も呆然としているのだから、それは言わずとも語られたのだ。

 小さなイリスは、医師達の曇った表情を見て全てを悟ったのだろう。『そっか……』と呟いて、彼らに目をやった。



『……そんな顔しないで?みんなは、私が鉢植えを割って怪我した時、傷一つ残らないように治療してくれたじゃない……
それにね、お屋敷のみんなや、群にも親切にしてもらって、幸せだったよ?今だって、初めて未来に恩返しが出来たと思ってる……』



 ――激痛や迫り来る恐怖など、他にも様々なものに襲われている筈なのに。それでも彼女は笑ったのだ。群が言ったような“裁判官”に、アタシは到底なれそうもない。今すぐ感情を露にしてしまいたいと、脳が強く主張している。

 いくつもの瞳に見下ろされる中、イリスは再び話し始める。呼吸すると、深紅が更に色濃くなった。



『……本当は私、あの雨の日に死んでたよ。パパとママに、知らない男の人の所へ連れていかれて……売られたんだって分かって逃げ出したけど……私の居場所は、何処にもなかったんだもん……』