『……私、初めて未来に会った時、未来を天使だって言ったよね?だけどね、今は、それ以上かもしれない……』



 荒い呼吸が繰り返される度、鮮血が吹き出す。医療班はまだなのだろうか。小さな苛つきが胸に生まれる。だけどその微小な塊も、この子の一言にかかれば瞬く間に消えてしまうのだ。



『未来は、私の命の恩人で、神様なの。だから、ね……未来が無事で、良かった……』



 ――痛くて苦しい筈なのに。イリスは聖母マリアのような慈愛に満ちた笑顔で、アタシの頬に手を伸ばしてきた。頭が、目の奥が熱くなる。こんな思いをする日が来るなんて、思わなかった。

 イリスはやがて、焦点の定まらない瞳を他のみんなにもゆっくりと向けていく。呼吸が段々と弱くなっている。気付いていたけれど、アタシ達は気付かないフリをした。



『ガルシア……未来のお世話は大変だと思うけど、任せるね。ソニアとグレイも、未来をお願いね……』



 胸を染める深紅が更に広がっている。ガルシア達は無言で頷いた。ソニアは目元を拭ったけれど、まだ感情には歯止めをかけている。アイスブルーの瞳が、今度は棕櫚の瞳と交わった。