――何が起こったのか、すぐには分からなかった。脳が理解を拒んだのだ。だが、婚約者や部下達の叫ぶ声で、現実を突き付けられる。



『イリス!何でお前が!?』

『どうして来たの!』

『ここは危険だから来ちゃダメだって、ボスからも聞いてただろう!?オレも再三言った筈だ!!』



 見下ろす先に横たわるのは、ウチの屋敷で働くメイドの格好をしたブロンドの少女。違う、イリスの訳がない。何度も何度も否定したのに。駆け寄ったガルシアに顔を上げたその少女の瞳は、冷たく綺麗なアイスブルーだったのだ。



『何で来たの……何でこんな危ない場所に一人で来たの!?』

『……お嬢様、イリスを喋らせない方がよろしいかと。出血が酷い。』



 腰元のウエストバッグから応急措置の道具を出し、止血を試みるガルシア。それなのに、イリスの胸元から流れる深紅の液体は止まらない。

 辺りはいつの間にか怖いくらい静まり返っていて、感じたことのない不安や恐怖が体にまとわりついてくる。足や手元に絡み付く震えを必死に抑えてしゃがみ込むと、流れる金髪の少女が苦しげに微笑して、口を開いた。