『……足音がするな。単独か。』



 人一倍耳の良い群が小声で言った。緊張の糸が張られ、みんな一斉に息を潜める。見つめる先には、ジョギングをする時のような格好をした、黒いパーカーに黒いスウェットズボンの人影。鼻から下のチラリと見えた骨格からして、男だろう。こちらを欺くために可憐な女性を使うという訳ではないようだ。



『……放火犯の可能性も、密売組織の一員の可能性もあるな。気配を消すのが上手いから、注意した方が良い。』



 群のイタリア語が、重々しく静寂に浮かび上がる。向こうはそれなりに“出来る”相手なのだろう。アタシは小さく頷いて、視線で部下達に注意を呼びかける。そうして、素早い動きで倉庫に入った男を追って、アタシ達も中へ侵入した。

 ――その瞬間。暗がりだった空間に、突然明かりが灯る。眩む瞳を適応させ、前を見やる。投げ捨てられたパーカーとスウェット。その後ろには、いつか会ったいけ好かない奴を筆頭にした集団がずらりと並んでいた。



『こんな簡単な手に引っかかるとは、お前達の判断力も落ちたんじゃないか?久し振りだな。チェーロのボスに、能天気野郎の後継者。』