「……話しかけるなと言ったでしょう。スペイン語の勉強不足かしら?」

「そんなこと言ったか?悪いな、俺は日本人だから。」



 あれだけイタリア語が喋れるのだから、同じラテン語系列のスペイン語も比較的早めに習得出来た筈だ。アタシの集中力に恐れをなして妨害行為に出たのね、この男は。

 皮肉にも9番は、ポケットにその体を少し預けていながら止まってしまった。ソニアとグレイが『あーっ!!』と雄叫びを上げる。無言のガルシアも何処か悔しげだ。ええ、アタシも物凄く悔しいわよ。



「正式な試合だったら、アナタ失格よ。」

「正式じゃねぇから楽しめる部分もあるだろ?悪いが、9番はもらうぜ。」



 憎たらしい笑みを浮かべた群を見て、ソニアが『いつかバチが当たるわよ』とアタシに耳打ちする。本当にそうなれば良いのに。心で呟いた、次の瞬間。室内に、ガコンという音が響き渡った。

 アタシ達の視線は、一斉に9番がある場所へ。でも、そこには今まであった筈のものが見当たらない。もしや……そう思っていたら、スタスタと歩いてきたエンゾさんがビリヤード台をゴソゴソとやり、黒いカラーボールを高く掲げた。