『ちょっと黙っててくれない?気が散るわ。』



 目を閉じて、全神経を集中させる。いつだったか、父が言ってくれた言葉を思い出す。



“良いか、未来。人間は不安や恐怖にさいなまれて、実力が出しきれないことがある。そんな時は、一旦頭を空っぽにしなさい。
かつての私の師匠は、目を閉じたまま生徒達20人余りを相手にしていた。人は「無」の状態が一番強い。潜在能力が開花する状態だとも言われるから、肝に命じておきなさい。”



『……誰も話しかけないでね。物音一つ立てないで。煩くしたら撃つわよ。』



 ほぼ脅迫に近い言葉を吐いたお陰で、室内の空気は凝固。これならもしかして、何かが起きるかもしれない。

 一切の無駄な思考を払って標的だけを見据えたら、球はアタシの意志を理解しているかのように、次々とポケットインしていく。人間って、ここまで集中出来るものなのね。自分自身に感心しながら、ラスト9番に狙いを定めた――その時だった。



「……お前、怖すぎるぞ。その集中力は異常だ。」



 突然耳元で聞こえた低音に驚いて、キューがブレた。この男……沸々と湧き出てくる怒りを抑える必要はない。アタシはそう判断した。