――ムスクとアンバーの混香に包まれているような感覚に、ゆっくりと瞼を持ち上げる。群が付けている“ライトブルー”の香り。彼に抱き締められているのだと、脳が訴えてきた。

 昨日チラチラと垣間見えた苦悩の表情とは違って、群の寝顔はとても安らかだ。大切なものを奪われたことで絶望した彼が、時に誰かの大切なものを奪わなければならないということは、果たして心にどれ程の痛みを伴うのだろう。アタシは想像することでしか、彼に寄り添えない。100パーセント解り合うなんて、例え超能力を持っていたって難しいことだと思う。

 だけど……



「……Te apoyo.(アナタにはアタシがついてるわ。)」



 完全な相互理解が出来なくても、支えることをやめたりはしない。そこまでの人間関係なら、きっと端(はな)から付き合わない方が良いのだから。

 アタシはいつまでも群の味方だから、守ることだけを意識しないで欲しい。たまには寄りかかったって良いじゃない。そう伝えるように、飴色の髪をそっと撫でる。そうしたら、長い睫毛が小さく震えて、アタシの姿を映す棕櫚色がそろそろと現れた。