「……やめましょう。馬鹿馬鹿しいわ。」

「その馬鹿馬鹿しいことの原因を作ったのはお前だろ?つまんねぇ嫉妬なんかしてないで、俺を信じてりゃ良いのに。」

「事の発端はアナタでしょう?責任転嫁はよして欲しいわね。
……とにかく移動しない?いつまでもここに突っ立っている訳にはいかないわ。」



 アタシ達は、先程の絵画の前から一歩も動いていない状態。群は「そうだな」と呟いて、静かにアタシを見つめてきた。



「……何?」

「いや……お前が怒ったのが意外だったから、早いとこ機嫌を直してもらおうと思ってな。」



 薄く笑みを浮かべた群の顔が、ゆっくりと近付いてくる。まさか、と思った時にはもう遅かった。気まずそうに視線を外す部下達を目の端で捉えながら、唇に柔らかいぬくもりを受ける。



「……アナタ、本当に日本人?躊躇いがないわね。」

「残念ながら、15からイタリアに居るんでな。文句ならそいつに言え。」



 そう言って、自らの側近を指す群。意地悪く笑う彼がイタリア語で同じ台詞を繰り返せば、苦笑を洩らすエンゾさん。彼は『すみません、お嬢さん』と言い、“やれやれ”といったようにガルシアと顔を見合わせた。