『ねぇ、アデラ。パパとママが何処にも居ないんだけど。知らない？』

『あら、ご存知ないのかい？奥様と旦那様、今朝早く旅行に出発されたのよ。』

『……旅行？一体何処に？』

『さぁ、存じ上げないねぇ。ただ“暫く留守にする”とおっしゃっただけですから。』



　長期間こちらを離れるようだから、お嬢様にはしっかりしてもらわないと、とアデラ。白髪混じりのまっすぐな黒髪をマッシュボブにしている彼女は、薄墨色の短い髪をそっと撫でているマルタに『ねぇ』と同意を求める。

　マルタは『私達も、お嬢様を頼まれたからにはしっかりしないとね』と返す。アデラは頷いて、夕食の準備が出来たから食堂へ行くようにとアタシに促した。

　――その時だった。突然、ポケットの携帯が低く唸って騒ぎ出す。サブディスプレイに表示されたのは、約一ヶ月振りに連絡を取ることになる我が婚約者の名前だった。



「……どうしたの？」

「ヤベェことになった。シュヴァルベとヴォルケがトリノで争ってるらしい。すぐ来てくれ。」

「ルッツさん達が？分かった、すぐに向かうわ。」