『……ボスをガキ扱いすんな!!お前だけは絶対許さない!!』



　我が秘書の制止を振り切ってきたらしい黒豹の瞳には、燃え盛る炎が見えるようだ。利き手が折れていようがいまいが、彼女には関係ないのだろう。幾分怒りを押し殺した声で、ソニアは続ける。



『ボス程じゃないけど、利き手をやられても支障がない程度には訓練してんのよ。ローサをナメんな！』



　草食動物を追い詰めた時の肉食動物の目をしたソニアの左手が、冷えた夜の空気を切って斜めから男の首へ降り下ろされる。怯えた金切り声を発した男。奴が意識を飛ばす寸前に見たのは、自分を狙う恐ろしい目をした切り裂き魔だったのだろう。

　――かすった首筋に数本の赤い線。飛沫(しぶき)が散らなかったということは、ソニアも我慢を覚えたのだ。



『……25分、ですね。急がなければ先に倒した奴らが起きてしまいます。』



　腕時計を見たガルシアが冷静にそう言う。アタシは小さく頷いて、手招きで部下達を側へ呼んだ。

　――夜空に掲げた五つの拳がぶつかる。“任務完了”の儀式だ。最後の一人を車へ押し込んだ、まさにその時。忘れかけていた白スーツが、アタシ達の前にユラリと現れた。