『……それ以上言うと、“私の両手を左右に引く”わよ?』



 パトリシアの少しだけ低くなった声は、奴の耳には不気味に響いた筈だ。彼女の両手には、奴の首に巻き付けた髪の毛の端がそれぞれ握られている。つまり、パトリシアが手を動かせば“切れる”ということだ。



『ヒィィッ!やめてくれぇっ!!』

『そう思うなら初めから馬鹿馬鹿しいことを口走らなければ良いのよ。私達のボスに無礼を働いた奴は“殺す”からね。』



 パトリシアの両手が僅かに動く。キリキリと首が締まる恐怖を感じたのか、奴は発狂した声を上げて卒倒した。彼女の“ほんの脅し”が、奴には致命的だったらしい。

 組織との戦いが始まってから20分が過ぎた。残る敵はあと一人。ソニアの腕を折った、アイツだ。沸々としてくる憤りを抑えながら、奴を見据える。



『……降参するなら、痛い目に遭わせるのをやめてやっても良いわよ?』

『ケッ、上から物を言いやがって!ガキが付け上がってんじゃね……』



 ――奴が最後まで言葉を紡げなかったのは、アタシが制裁を加えたからではない。アタシの背後から伸びてきた鋭い爪が、奴の頬を引っかいたからだ。