――が、奴の願いは叶わなかった。何故ならパトリシアがソイツの腕を掴み、その首に黒く細長い何かを瞬時に巻き付けたからだ。
グレイが“やるな”といったように口笛を吹く。パトリシアは『あら、ありがとう』と綺麗に笑い、それとは真逆の冷たい微笑みで敵を凍らせる。
『私の髪の毛、凄く頑丈なの。そうねぇ……剃刀くらいの役目は果たすかしら?』
こういう時の彼女は妖蝶というより“氷の女王”だ。波打つ自らの一本の黒髪をピンと糸のように張り、男の首筋へ愉快そうにあてがう姿は、流石殺し屋、と言うべきなのだろう。
『離せ!離せぇ!!その女がオレを馬鹿にしたんだ!!殺してやる!!』
身の程知らずの弱いハスキー犬がギャンギャンと吠えるのは、煩いことこの上ない。アタシが簡単に殺されるというのなら、ローサはとっくの昔に終わっているだろうが。思考回路を点検しろ。そう返してやろうとした時――妖蝶とカマイタチの目がギラリと光った。
きっと黒豹と秘書の目も、アタシが見ていない所で怒りに燃えていたのだろう。ギリリと何かを握り締める背後の音が、アタシの耳に確かに入ってきたのだから。
グレイが“やるな”といったように口笛を吹く。パトリシアは『あら、ありがとう』と綺麗に笑い、それとは真逆の冷たい微笑みで敵を凍らせる。
『私の髪の毛、凄く頑丈なの。そうねぇ……剃刀くらいの役目は果たすかしら?』
こういう時の彼女は妖蝶というより“氷の女王”だ。波打つ自らの一本の黒髪をピンと糸のように張り、男の首筋へ愉快そうにあてがう姿は、流石殺し屋、と言うべきなのだろう。
『離せ!離せぇ!!その女がオレを馬鹿にしたんだ!!殺してやる!!』
身の程知らずの弱いハスキー犬がギャンギャンと吠えるのは、煩いことこの上ない。アタシが簡単に殺されるというのなら、ローサはとっくの昔に終わっているだろうが。思考回路を点検しろ。そう返してやろうとした時――妖蝶とカマイタチの目がギラリと光った。
きっと黒豹と秘書の目も、アタシが見ていない所で怒りに燃えていたのだろう。ギリリと何かを握り締める背後の音が、アタシの耳に確かに入ってきたのだから。