――潮の香りがうっすらと漂う港で、アタシ達は息を潜めている。というのも、今夜ここで麻薬の取引が行われると耳にしたからだ。

 いつだったか、群の率いるチェーロがいくつかの組織を捕らえたそうだが、こういう類いの集団はいっこうに減らないのが現状。しかし、そういった動きを撲滅することを怠ってはいけないのもまた現状なのだ。



『ボス。私が来たからには、万が一ヤバいクスリを注射されても安心よ。』



 隣で呟いたのは、波打つ黒いミディアムヘアの美容師・パトリシア。彼女も実はローサの一員で、毒の知識にかなり長けているため、アタシの父に採用されたのだそうだ。

 普段はアタシを名前で呼び捨てする彼女だが、『任務の時は敬意を示したいから』と言って呼び分けをする。彼女の本職柄、同僚や客の前でアタシを上司だと言うと大変なことになるからというのも理由の一つだろうけれども。パトリシアの言葉に頷いて、アタシは未だ現れない二つの組織を待った。



『それにしても遅いですね。まさか感付かれているとか……』



 ガルシアが小声を発したその時。闇夜に紛れて黒いバンが到着し、中から同じ色の服を着た人影が五つ、六つ姿を見せた。