あの歌姫は大きな傷を抱えている。自分を守るためなのか、純粋なその心を否定するかの如く他人を傷付ける言葉を吐く。かつて、自分がそうされたように。

 彼女の外見は万人をも引き寄せるが、その瞳はいつも何かに怯えているのだ。もしかしたら、歌うことだけが彼女を支えているのかもしれない。



『それにしても犯人は一体……』



 歩き出した廊下の真ん中でルイ君が呟く。彼の疑問はみんなの疑問だ。彼女の過去が写った写真が送られてきたということは、当時の彼女を知っている者か、度を越したマニアか……



『ルイ。今は犯人探しよりも、あの子が安全にショーを出来るように警備することが大事だ。他の奴らも、余計なこと考えてねぇで警備に集中しろよ。“脅迫状”が届いた以上、いつ何が起こってもおかしくねぇんだ。』



 コントラバスのような響きが皆に注意を促す。余計なことを考えていたアタシは少なからず反省した。群はあえて“脅迫状”と言ったのだろう。あの写真は確かに、アンヘラからすれば脅し意外の何物でもないのだから。



『……みんな、アンヘラから目を離さないで。』



 全員が頷き、会場に入る。ミッション・スタートだ。