異様な静けさがアンヘラの控え室を支配する。誰一人として物が言えない。アロンソ氏が彼女に何か言おうとして口を開いた時、タイミングが良いか悪いか、ドアの向こうから『アンヘラさ~ん!スタンバイお願いしま~す!!』という声。アンヘラはアロンソ氏に微笑み、次いでアタシ達に笑顔を見せる。



『……警備、しっかりよろしくね。』



 慌てて後を追うアロンソ氏を従えた彼女の背中は堂々としており、とてもさっきまで取り乱していたとは思えない。不思議な子だ。



『流石はプロだな。表情が一瞬で変わった。』



 感心する群の声に頷くアタシ達。ふとルイ君に目をやれば、やっと“ボス”の顔になっている。さてはアンヘラを気に入ったわね。マフィアのボスと儚い歌姫だなんて、なかなかスリリングな組み合わせじゃないの。



『……ルイ君、あの歌姫を落とすには相当な持久力が必要みたいよ?』

『俺もそう思うぞ未来。ま、女の口説き方を知りたかったらいつでも聞けよ。』

『そ、そんなんじゃありませんっ!!からかわないで下さいー!!』



 ルイ君に“愛あるからかいの視線”が向いた後――全員が“仕事の表情”になった。