『リラ、彼女は未来ちゃん。俺がお世話になってる方の大切な娘さんだから失礼のないようにな。』



　リラが頷くと、彼女の手からマスターに注文用紙が渡った。



『未来ちゃんはいつものか。リラ、未来ちゃんはいつも“パエリアセット”と“ミルクティー”を頼むんだ。覚えておきなさい。』

『はいマスター！』



　何て微笑ましい素直なやり取りだろう。ウチの部下達にも見せてやりたいくらいだ。そう思っていたのも束の間、アタシは小舅の『おーじょーおーさぁーまぁー！』という間延びした声で現実に引き戻された。『はいはい、今行くわよ！』と返事をし、アタシはマスターとリラに向き直る。



「マスター、またゆっくり話そうね。」

「あぁ、またそっちにも遊びに行くよ。奥さんの誕生日が近いだろう？」

「あぁ、ママ？うん、パパもママもマスターに会いたがってたよ。」



　アタシはマスターに笑顔を向けて、リラに視線を移す。



『リラ、またね。今度ゆっくりお茶でもしましょ。』

『はい……って、イタリア語喋れるんですね!?凄い!!』



　キャーキャーと叫ぶリラに小さく手を振り、アタシは部下達の元へと歩いていった。