いま拓海のなかに湧きあがっている感情は、これまでに感じたことのないものだった。
 その感情に戸惑い、思考回路がほんの少しだけショートしているのかもしれない。

「決めた!」
 飯島が突然立ち止まり叫んだ。

「何だよ、でかい声出すなよ」
「おれ決めた」
「だから何を?」
「おれ、あの劇団に入る!!」
 飯島は、両方の拳を高々と突き上げて吼えた。

 その声は、静まり返った商店街に響き渡った。