「何も店を畳めと言っている訳じゃないんだ。

御前は『自分なんか』なんて思っているかもしれないけど俺にとって御前はたった一人の女なんだよ、だから…

一緒に帰ろう。」


こちらを向こうとしない香音に対して水谷は必死に懇願する。


だが幾ら説得しても香音の思想は変わらない。


「…悪いけど、もう決めた事だから。

戻ったらまた余計なモノまで舞い戻りそう気がして…もう嫌なんだ、ウンザリなんだよ、だから…」


小さな身体は小刻みに震えている。

その様子を見ていた水谷は痺れを切らしたのかようやく折れて答えた。


「…分かった。」


出された拳が再び元の位置に戻り、懐に帰った。


変に名残惜しさだけが残る。