そう思ったが我に返り強く頭を横に振る。


まだ蒼い馨はそんな『大人の世界』に入り込める程の勇気がある筈もなかった。


仕方無い、という感じで愛煙している『マールボロ』を溜息混じりに深く吸って吐いて、重い足取りで持ち場に戻っていった。




_午後一時。


「何よ?その目は。
店員がそんな態度取って只で済むと思っているの?」

「はい?」


客からのクレームは日常茶飯事だが稀に頭が可笑しいんじゃないかと言いたくなる様な客が言い掛かりを付けに来る時がある、当に今の状況の様に。


「『はい?』じゃないわよ。
さっきアンタ私の事睨み付けてたでしょ。」



こんな風に年は取りたくないもんだ、と溜息を付きながら馨も負けじと対抗する。


「そう思わせたのなら申し訳御座いません。
ですが私は決して睨んだつもりはないです、それだけは信じて下さい。」


「話にならないわ。

ちょっとアンタ名前何て言うの?
上に文句言ってやるわ!!」


逆上する年増女に物凄い力で腕を引っ張られ『痛い』と思うより先に『怒り』が込み上げた。