_八年前 夏。

某スーパー。


齢十九で一人立ち。

よくある事かもしれないけれど初めて社会に出てからふと考える事が多くなる。


まだ大学とか専門学校に通っていれば_

裕福な実家を出なければ_

そもそもちゃんと夢さえ持っていれば_…


考え出したら切りが無い事くらい百も承知だが周囲の大人達に少しでも追い付こうともがいている今、そんな考えで頭を充満させないと余計駄目になっていきそうで今日も『仕事』という名の鞭に打たれながら何も変わらない日々を送ろうとしていた。


特に目標がある訳ではなかったし、本当に生活の為に働いているだけであって、達成感なんて微塵も感じた事はない。



強いて言うならば家庭事情…とでも言っておこうか。


馨の家庭は代々引き継がれてきたドラマとかでもよく出てくる様な極道であり『竹内組』の一人娘である。


仲間内の争いなんてよくある事だし、何より世間の目が想像以上に冷たい。


幼い頃から人並み以上に凍てつく様なその光景を目の当たりしてきた馨にとって、それは只の地獄でしか無かった。


裏社会で人を騙し、大金を巻き上げる組織も決して珍しくはないので一般人からの信頼も極めて薄いと言える。


お陰で馨はそれなりに優秀に育てられたが、かえってそれが裏目に出て学生時代から『コイツは裏で何を仕出かすか分からない』という疑惑が後を絶たず、友人が減るのも時間の問題だった。



それ故にいつしか裏社会の中で生きる自分に嫌気が差し、高卒したら真っ先に家を出ようと考えていた。




だが今となってはそんな家でもたまに『帰りたい』だなんて思ってしまうのだ。



そんな軽率な考えをする自分が余計嫌で死すら考える時がある。



「…一層風俗にでもなろうかな。」