「遅い、わざわざ出たくもない場所に引きずらせやがって…」
「悪りぃ、悪りぃって!
予定より終わらなくてよ!」
「連絡も取れない程忙しかったの?
いつも仕事中でも出れるじゃん。」
「いや、マナーモードにしてました…」
「この馬鹿‼
お陰でコッチは生地獄だよ!!!
何時間待たせる気⁉馬鹿‼」
「今二回『馬鹿』って言った⁉
二回言う程嫌なら外に出ずに大人しく中で待ってりゃ良いだろ!!」
「…来てるんだよ、『アイツ』。」
「え…?」
流石に騒がしい男勝りな『金刺瑠華(かなざしるか)』も事情を察したのか怒鳴るのを止め、口をつぐむ。
数秒黙って首を傾げたが再び口を開いた。
「…何しにだよ。」
「知らない。」
「知らないって…嫌なら追い出せよ。」
「…………」
瑠華に返す言葉が見つからないのか香音は黙ったまま俯き顔を上げようとはしない。
その様子に耐え兼ねたのか瑠華は大きく溜息を付くと今にも折れてしまいそうなその腕を着物の裾ごと引っ張った。
「…しょーがねーなー……行くぞ。」
こうして女店主は跳ねっ気のある短髪ヘアに元の闇の中に戻されてしまったのである。