先程の溶け落ちてしまいそうな橙色した広大な主は一体何処へ行ってしまったのか_




いつの間にかそれは漆黒のコートに身を纏い、異様に欠けた銀色のブローチだけが目立っていた。


対称的なコートの下は何故か鮮やかでそいつはいつもそれを疎ましく思っていた。

「…眩しい。」

久しく夜の街並みを拝見していなかった若い女は更に漆黒を纏った路地裏から黒い塊となってゆらりゆらりと動きながら『眩しい』場所へと近付く。


ようやく姿を露にしたその女はまだその場に慣れないのか険しい表情のまま、溜息混じりに口の中にあるモノを吐き出した。


彼女の名は『香音(こうね)』。


香音はそんな路地裏の奥にひっそり佇む居酒屋を経営している女店主である。


見た目は無愛想で華奢な癖に妙に存在感がある。


赤い団子頭の所為か

青い崩れた着物の所為か

口に咥えた煙管の所為か

それとも華奢な身体に似合わない『それ』の所為か_



「香音ー!」



疎ましい場所に相応しい…と言ってはいけないが明るさと気の強さが取り柄の女が大声と共に様々な音を立てて近付いてくる。