卒業時に貰う学ランの第2ボタンは心臓(ハート)に1番近いから心という意味で貰うらしい。
「先輩…卒業……おめでとうございます」
「ん、ありがとう」
「さすが先輩…ボタン全滅ですね」
花束を受け取る先輩の学ランはボタンの金色が見当たらない。
「俺のボタンなんて価値無いのにな」
そう言って呆れた様に笑う先輩にイラっとする。
嘘つき…。
元生徒会長でサッカー部の部長でそれもイケメンなんてモテる要素揃い踏みで…
「どの口が言ってんのよ、バカ」
「あ?悪口か?」
「いいえっ、悪口です」
「フッ、やっぱり悪口なんじゃねぇか」
手の甲で口を隠して笑う姿が絵になるなんてイケメンだけだよね…。
自然とため息が出た。
「先輩って本当卑怯ですよね」
「何が?」
「後輩の告白を何度も交わしておきながらとうとう笑顔で卒業するんだもん、卑怯です」
ねぇ、先輩。
私の心は別に強くないんですよ?
今も後ろで組んでる手は震え、ボタンが1つもない学ランにショックを受けてるんですよ。
「だって、追いかけられたら逃げたくならない?」
「なにそれ…」
これまで計4度告白をした。
全部答えはなかった。
それが最後の最後に伝えたのに逃げたくなる?
なによそれ…人が一生懸命追いかけてたのに…。
みるみると涙が目の上に溜まる。
「最低っ…このバカ!」
「あ、泣いてる」
涙でぼやけて見える先輩は笑ってて、またそれに腹が立つ。
「もういい…先輩を好きなの卒業する」
きっとこの先何年この人を想い続けていても実らない。
それならいっそ今日でこの恋も卒業した方がいいはずだ。
そう思うのに
「なに言ってんの?そんなのダメだよ」
先輩は意地悪を言う。
「ダメって…人が一生懸命追いかけてるのに逃げるなんて言う人嫌に決まってるでしょ」
「嫌だね、でも俺が逃げても追いかけてくれるお前をずっと俺は好きだったんだけど?
だからこれからも追いかけてよ」
「は…?」
この人、今さらっとなんて言った?
「だから、好きだよ。ずっと前から」
「は?」
「お前さっきからそればっかり。
ちゃんと返事しろよ」
ずっと見ていた先輩は少し意地悪。
だけど
「…もう一度言って下さい」
「………何度も気持ちを伝えてくれる君が可愛くて仕方なかったよ。
好きなんだ、だから俺と付き合って?」
私が一度頼むと、いつも断らない優しい先輩。
だから、私の告白は断れないから曖昧な交わしで誤魔化していたのかと思ってた。
でも、違ってたんだね。
「ほら、泣かないで返事してよ」
「先輩っ」
勢い良く抱きつくと目の前の先輩は大きい手で優しく受け止めてくれた。
「大好きですっ」
「…嬉しいお返事です」
学ランのボタンは欲しかったけど諦める。
だって、貴方は代替え品のボタンではなく、本当に心をくれたんだもの。
「先輩、卒業おめでとうっ!」
「うん、ありがとう」
そして、これからは恋人としてよろしくね。
【心】