教室の窓から見えるグラウンドはだだっ広く、そんなグラウンドにいる人間はみんな米粒の様に小さくて

誰かすら分からないくらいなのになんでだろう。



「ほら、声出してこー!」



なんであの子だけははっきりと表情も分かるくらい分かるのだろうか。



「あれ?まだいたの?今日バイトは?ねぇの?」



休みなら遊ぼうぜと誘って来る同級生を軽く遇らう。



「17時からあるわ」



時計は16時を過ぎた所だ。



「時間潰し?」


「…まぁ、そんなもん」


小さな声で嘘をつく。


そんな俺の横に立つと、同級生はニヤリと笑った。



「ふぅん…結構影で人気だしそれも野球部と言う名のガードマンもいるし、

まぁ大変だろうけど頑張れや」


そう言うと笑って教室を出て行った。


そんな同級生の背中を唖然とした顔で見つめる。



「なんでバレてんだよ…」


恥ずかし…。


窓に反射した自分は何とも情けない顔だ。


そして、その奥に映るのは



「ほら、声出してーっ!球取れないよー!」


泥だらけで球を追い掛ける野郎共に声援を送る女の子。



「…まぁ、いっか」



窓を開け、息を大きく吸った。


「野球部頑張れーっ!」



今までで1番なんじゃないかと思える程の大声を上げた。

もうバレたっていいや、公開片思い上等だ。


別に野球部を応援しているからと大声を出した訳じゃない。

野球部に友達もいない帰宅部の俺がいきなり声援をした事に一瞬野球部の野郎共は呆然として校舎にいる俺を見上げる。


しかし、そんな野郎共とは違って黒土のグラウンドにいる唯一立っている女の子は俺の方に身体を向け頭を下げた。


「ありがとうございますっ!」


お礼と一緒に見せてくれたのはとびきりの笑顔。


この笑顔が俺に向くのであれば嘘の声援なんて幾らだって大声を上げてしてやる。

そしてその笑顔をいつかこんな小細工を使わなくても俺だけに向けてもらえるように

勝率は0に近いこの勝負やってやろうじゃないか。



「まずはあの鉄壁をどう越えるかだな…」



グラウンドから痛い視線を感じながら明日野球部の部室に呼び出されない事を祈った。


【声援】