私はただ拳を握って、この男が私から離れるのを待つ。
「てかいーんちょいつ帰んの?一緒に帰ろうよねーねー」
「……」
「ねー!聞いてる?」
「……」
「しょうがないな。じゃあきょうこー突破ってやつ」
私の首元に絡まっていた細い腕がモゾリと動く。その腕の先にある細長い指は私の顎にスルリ、とやらしく触れた。
その手は私の顎を捉えると、一気に私の顔を上げる。そして迫ってきたのは、誰もが羨む端正な顔。
ちょ、これ、
「…な、なにすんのよ!!」
私が叫んだのは、鼻と鼻の先がくっついた時だった。
目の前には子犬のように可愛らしい潤んだ瞳。その目はどんどん楽しそうに細められて行く。く、くそ。
「やっと喋ったじゃん」
悪戯っ子の笑み。確信に満ちた行動。
ショートマッシュの髪の毛の彼は、私の顎から手を離した。私はただ彼が立ち上がる様子を見上げることしかできない。
すると彼は私に手を差し出してきて。