ガラリと扉が開いたと同時に耳に入ってきた明るい声。私はその声が聞こえてないフリをして、ひたすら空気になろうとする。
私は今空気。酸素と同化。そう、私は酸素であって人間という個体物ではないのだ。教室は誰1人いない。だから頼むから帰ってくれ。頼むか、
「いーんちょーそこで何してんの?」
「っ、」
肩にのしかかっていた重み。
甘ったるいお菓子のような匂い。
恐る恐るその重さの方を見てみると、ぱっちり二重の大きくて潤んだ瞳と目が合った。
「いーんちょ?」
匂いと同じぐらい、甘いボイス。甘ったるすぎて、胸焼け。吐く、吐けるものなら吐きたい。
「ねーねー、そこで縮こまって何してんの?照れてんの?俺とまた隠れんぼしてんの?いっつもいいんちょー隠れんの下手すぎて笑えるんだけど!」
私の首元に手を回して饒舌に話す彼に私は何も言い返さない。言い返したって意味がないことはもう分かってるからだ。ああ言えばこう言うの権化だからだ。