確かに、前日私は悠々と遅刻してきた橋本くんに注意した。したけど、1日でやってこいなんて言っていない。
しかしあまりに驚いた私は何も言えなくて。
そんな私の顔を、楽しそうな笑みを浮かべて橋本くんは覗き込んできた。
近づいた距離。
香ってくる、甘ったるい匂い。
端正な顔。
「俺に怒ってくるなんて、随分と肝っ玉だね、"いーんちょー"」
「お、怒ってなんか…」
「なに?怖い?」
どんどんと近づいてくる顔。その顔は、私をいじめることに優越感に浸っているような、そんな意地の悪い顔。
彼の綺麗な黒髪の裾が、サラリと揺れる。
こんな状況にも、彼の顔に見惚れてしまうなんて悔しい。
「この世界は俺が全て」
そんな馬鹿げた台詞と、彼が言うと本当に聞こえてしまう。