「食べなよ」
「や、だから苦手って」
「あっ、分かった」
いきなり彼は楽しそうに微笑んだかと思えば、チョコレートの紙を開ける。
「口移ししてほしんだ?」
「…はっ!?」
彼はピンク色のチョコレートを指でつまむ。
そしてそれを口に咥えようとする……ところで、私は思わず彼の腕を掴んでいた。
「なに?」
「や、あの」
「食べたい?」
「……口移しよりかは」
いや、そのまま橋本くんに無理やり食べさせた方がよかったのかもしれない。しかし彼が大人しく食べてくれるとも思わないし。
なんて思っていたら、チョコレートが無理やり口をこじ開けて入って来る。
「むぐっ!」
「あーん」
私の口にチョコレートをねじこんでくる橋本くんの顔はさながら悪魔に見える。弱いものいじめをしている悪魔。
私はねじ込んで来る力に負けて、渋々それを口内に受け入れた。するとさらに睨んで来る女子たち。…これは不可抗力なんです。
むぐむぐとそれを食べている間も、橋本くんは私をにやにやと見ている。それはもう満足そうな顔だ。
「おいしー?」
「……おいしい」
「ね」
悔しい…私が本当はチョコレートが好きなのがバレていたのが悔しい。
私は鼻歌を歌いながら携帯を弄っている彼をこっそり横目で睨んでおいた。