私には恋愛なんていらないんだから。真面目人生に恋愛なんて。そもそも好きって気持ちがよく分からないし、ましてやあんな男と恋愛なんて考えられない。
と、
「いーんちょーチョコレートいる?」
視界にいきなり突き出された、固体。
その固体を持っている指は細長くて女性的だ。私はその固体を見つめながら、「は?」と変に低い声を出してしまった。
「なにその声、こわー。チョコレートだよ、チョコレート」
「…なんの?」
「なんかさっき貰ったやつ」
おい、と私は橋本くんの後ろにいる取り巻きの女子たちを見ると、約1人の女の子に鬼の形相で睨まれる。きっとあの子が餌付けしたチョコレートなのだろう。
「いや、私チョコ苦手だからいいよ」
うそ、本当は大好きだけど。
そう遠慮すると、橋本くんは意外と精悍に釣りあがっている眉毛をひん曲げた。それから無理やりチョコレートを私の口に押し付けてくる。