藤くんは机を運びながら


「好きな人の話はあんまり人に話すことじゃないしね。そんなにいじめてあげない方がいいんじゃない」


作った笑顔でそう言った。

視線は確かにわたしの方にあるのに、目は合わない。


「まぁ、そうかも。これから先輩といろいろあるんだよな。付き合ったら報告してな、桃里」

「………」

するわけないでしょと言いたかったけど、やめた。

藤くんはみんなの前だから笑っていて、優しい言葉をかけてくれる。


でも、わたしが好きな藤くんは今の藤くんじゃない。


優しい言葉をかけてくれた方が嬉しいはずなのに、完全に一線を引いている藤くんの態度に辛くなった。


そうさせてしまったのは間違いなく自分のせい。


「じゃあさ、柊真は彼女いるの?」

「俺?俺はいないよ」

「まじで言ってんの?しょっちゅう告白されてるのにまだ入学して付き合ったことないよな?」


時田くん、藤くんには彼女いるよ。

藤くんもいるのにいないって嘘つくな!って言いたいけど、言ってしまえばそれこそ高校生活に終わりを告げるから掃除を黙々と続けた。