私たちは再び屋上に向かった。

屋上の戸を閉めると、今までかすかに聞こえてきていたピアノの音色が聞こえなくなった。そのかわり、遠くからにぎやかな話し声や部活の声が聞こえてくる。


「ねぇ、水野さん」


冷たい声を掛けられ、振り向く。

藍原は声と同じ冷たい微笑をその整った顔に浮かべている。


「君は、俺が本気であの男を殺しはしない…とか、思ってる?」


私は小さく首を振った。


「あなたが前世と同じ考えの持ち主なら…本気ですると思う」


私の答えを聞いた藍原は、満足そうに笑った。


「俺のこと、よくわかってるじゃないか。それがわかってても…君は、また俺を拒むのか?」


「自分の気持ちに嘘はつけない。私はきっとあなたになびかない」


「ふぅ…ん」


藍原は私を舐めるように見た。

ゾクッとする。


「君は…俺が前世君にしたことを覚えてる?」


忘れられるわけがない。


「覚えてる…あなたがした行動は、絶対に許すことはできない。彼を殺したことも、私をレイプしたことも」


「全部覚えていてくれてうれしいよ。俺が君の声を奪ったことを思い出すたび、満足感に浸ることができる」


そう言ってニヤリと笑う。

やはりこの男は…異常だ。


「今背でも、君の声を奪いたいよ。その命も…ね」