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「あの、今日から二階で働かせてもらってます、坂井美里です。よろしくお願いします」

その場にいた人に挨拶をかねて自己紹介すると皆笑顔で、よろしくねと答えた。

皆優しそうな人達でよかった。
楽しそうな職場だな、と思った。

「さ、着替えよう」

挨拶もそこそこに、先輩に言われて更衣室へと急ぐ。
ペコペコお辞儀をしながら歩く私に

「永井隆文です。よろしく」

彼は笑顔で自己紹介した。

「坂井美里です」

ペコッとお辞儀しながら再び名前を繰り返した私はやっぱり緊張していた。
ロボットのようにかたまったまま同じ動作を繰り返す私の姿は回りから見たらひどく滑稽だったと思う。
案の定、笑われてしまった。

「名前はさっき聞いたよ。そんなに緊張せんで大丈夫やで」

永井さんの顔は笑っていた。
口角が上がり、半開きになった口の中は何本か歯がなく、途中でかけている歯も見えた。

お父さんと同じだ……。
咄嗟にそう思った。
あたしのお父さんも何本か歯がなく、途中でかけた歯がある。
煙草のせいもあるみたい。
父親との共通点だったせいかあまり気にならず、着替えたあたしはただ、お疲れ様でした、おやすみなさい、とだけ挨拶してバイト先を後にした。