「桐谷は? 桐谷が将来なりたいものは何?」


そんな事を考えながら一人嬉しくなっていたら、ふいに瀬戸くんが顔を近づけてきた。


そしてそのまんま同じように返された質問に、わたしは目を見開く。


「え? わ、わたし……?」

「うん。桐谷の将来の夢ってなに?」

「え、えっと、わたしの夢は……」


ど、どうしよう。


まさか話を振られると思わなくて、口元がモゴモゴしてしまう。


それでもわたしの答えを待っている瀬戸くんに、ギュッと両手を握り締めた。


「……し、しっかりした、イイお母さんになる事です」

「ははっ、そーゆー夢?」


わたしが口にした将来の夢に、瀬戸くんは肩を揺らして笑った。


あまりにも可笑しそうに笑うから、わたしの顔は見る見るうちに真っ赤になって……。


そのまま小さくなってしまったわたしを見て

瀬戸くんは笑い涙を拭いながら、慌ててポンポンと頭を撫でた。


「あはは。ごめんごめん。いや、うん。桐谷らしくてイイと思うよ。意外と肝っ玉母さんになるかもな」

「……」

「だとしたら桐谷のそういう姿、見てみたいな」


瀬戸くんの何気ない一言に、わたしの胸がドキンと熱くなった。


この時、わたしがどうして何も言わなかったか…何も言えなかったか

あなたはきっとずっと気づかない。


だって口が裂けても言えないから。


わたしが将来なりたいもの


それは瀬戸くんのお嫁さんになることです、なんて。

……たぶん、一生ヒミツ。




―END.