私は一瞬黙り込み、大きな溜息をつきながら諦めたように口を開いた。
「……悠希、アナタには話したんだね。あいつ、琥珀ちゃんにも別れたって言ってないはずなのに」
「え、そうなの? 俺はてっきりみんな知ってるもんだと思ってた」
「私はアナタに浮気を疑われてるんだと思ってた」
「なんで?」
「アナタが、私たちが別れたことを知ってるなんて思わなかったから」
どうやら、お互い誤解していたらしい。
「ねえ、隣に座って」
「う、うん」
廈織くんは私に言われるがまま、恐る恐る腰を下ろした。
今回の行動に悪気がなかったことはよく分かった。
それに何より、廈織くんは悠希とは違った。
彼は逃げ出した私を追いかけてきてくれた。
それだけで今の私は満たされる思いだった。
そんな廈織くんは、果たして本当のことを受け入れてくれるだろうか。
受け入れられなくても、彼になら話してもいいと思った。
悠希が唯一本当のことを話した彼になら、私も本当のことを話せる気がした。
「ねえ、アナタはどこまで知ってるの?」
「どこまでって……悠希と君が別れたっていうのは聞いたよ。正確には、君があいつをフッたらしいね」
「ふーん……じゃあ、琥珀ちゃんのことは?」
「琥珀ちゃんがどうかしたの?」
「それは知らないのか……じゃあ教えてあげる。私、ついこの間まで琥珀ちゃんのこと苛めてたんだ。悠希の幼なじみって立場が羨ましくて、別れた原因もそれ。酷い女でしょう」
本当のことを人に話すという行為は、とても勇気がいる。
私は廈織くんの反応が怖くて、彼の顔を見ることが出来ずにいた。
「軽蔑……した?」