「はは。そんなに緊張しなくていいし、同い年なんだから敬語とかやめようよ」
「は、はい。あ! うん……そうだね」
「橘くんはすごく頭が良さそうだよね」
私の言葉に橘くんは照れ臭そうに頭を掻いた。
「そんなことない。それなりに勉強してるから……それより高橋さんの友達の七海さんの方が成績は上だと思う。彼女、色々と有名人だから」
色々と。
善し悪しが含まれているであろうその言葉に私は反応する。
「七海だって、努力の人だから、一緒だよ。両親が教師なんだって」
「そっか、気を悪くさせてしまいましたかね……」
私は階段に腰を下ろしたまま、ふと思った。
完全に話が逸れてしまっている。
この場所へ告白の返事をしに来たというのに、あろうことか告白した本人でさえも話が逸れている事実に気が付いていない。
私は重い腰を上げ、未だ直立不動の橘くんの前に姿勢を正して向き直った。
その場に再び緊張感が生まれる。
「あ、ごめんなさい。本題に戻しますね。まず、僕の手紙を読んで今日この場に来てくれてありがとう」
落ち着かないのだろう。
橘くんはそわそわ体を動かしていた。
「もう一度、自分の口から言わせてください。僕は琥珀さんが好きです。お付き合いしてください!」
頭を下げ、私の前に差し出された長く綺麗な橘くんの手。
この手を握れば、それは気持ちに応えたということになるのだろう。
「返事、待ってもらってもいいですか」
つられて敬語になる私に、橘くんは真剣な眼差しで口を開いた。