「僕は琥珀さんの本当の気持ちを確かめた上で二宮さんと上手くいくように応援してたんです。もしダメだったら、その時はって、彼女に逃げ道を作るような形で告白の返事を先のばしてもらいながら」
橘は、緊張しているのか、両手を擦り合わせながら私と目線を合わせずに、それでも言葉だけは途切れないように続ける。
「合法的に、琥珀さんの恋を応援する友達として、けれど彼女に恋をしたままで、僕はそんな――――ぬるま湯みたいな状態が心地よくなっていたんです。それがいよいよ終わってしまうのかと思ったら、なんだかやるせなくなって……気がついたら、この場所に来てました」
「ふーん……でも、どうしてこんな立ち入り禁止の場所に? 何か思い入れでもあるの?」
「ああ、僕、この場所で告白したんですよ。丁度今と同じ場所ですね。柳さんのところに琥珀さんが立ってました」
「マジで!」
言われて反射的にその場を離れてしまった。
なんというか、他人の思い出の場所に自分が入り込んでしまうのは、失礼にあたる気がしたから。
橘は、それから私にいろんな話をしてくれた。
どうして琥珀を好きになったのか。
片思いをしている時、ぬるま湯につかっている時、琥珀をどんな風に見ていたのか。
大切な思い出を惜しげもなく語る橘に、私は熱心に耳を傾けながら、同時に苛立ちを感じていた。
橘は――――廈織くんと同じく、私の苦手な「優等生」の部類だったから。