* * *
「朝早くにごめんね」
「いえ……それであの、どうしたんですか?」
「……昨日の話の続きをしようと思って」
「昨日、ですか?」
「うん。貴女のお兄ちゃんのことについて」
早朝、春田希望は同室のメンバーを起こさないように慎重に起き上がり、近くに眠っていた久藤花音を揺り起こした。
そのまま寝ぼけ眼の姫を連れ、別荘の外へ出たのが数分前。
時刻は午前六時過ぎ。
朝日が昇り、透き通る海が太陽に反射して輝いている。
そんな清々しい情景とは裏腹に、私と彼女の間に流れる空気は重い。
先ほどまで眠そうな瞳をしていた花音ちゃんは、今では急に呼び出された不安と緊張からか、自分のシャツの裾を強く握っている。
私は一体、何をしているのだろう。
彼の大切な妹を怖がらせるだなんて、本人に知れたら嫌われるだけなのに。