…まだ具合が悪いのだろうか。
朝方から保健室に行っていたことを思い出し、心配になる。
普段が明るいため、美登里が大人しいと雰囲気が未完成になるような気がした。
パズルのピースが一粒抜け落ちてしまったような、そんな。
「美登里?大丈夫?」
あたしが声をかけると、美登里はワンテンポ遅く頭を上げた。
まん丸い目はビー玉みたいに、無機質にあたしを映し出す。
底を無くした箱のようにぽっかりと、その目には力がなかった。
「…美登里?」
「あ…集中しちゃってたぁ、ごめんごめん」
へへ…と前髪に手をやり、曖昧な笑みを浮かべる美登里。
ツヤツヤと光が行き交う黒髪は、彼女の頬に影を落とした。
「まだ具合悪いんじゃないの?」
「ううん、よく寝たし大丈夫だよ。今日のシーンどこから?」
「えーっと…、45ページの、ワーリャとアーニャが二人で話す場面なんだけど…いける?」
「よっゆー!!ここのシーン、二人でよく練習したもん!!ね、美登里!」
美登里が答えるよりも先に、あたしたちの間に割って入ってきた奈々美が口を挟む。
奈々美のドレスには、あたしに向かって自慢気に胸を張る大きなリボン。
ぎゅうっと腕を組まれた美登里は、自信なさげにうん、と頷いた。
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