「桃!!やっと来たぁ〜!!」
放課後、旧校舎の教室に入るなり弾丸のようなタックルが飛んできた。
ふわっふわなピンク色のドレスに、金色の髪。
あたしはどこか変な世界に紛れ込んでしまったのかと、目を白黒させた。
しかし金色の前髪の下にのぞくいたずらっぽい瞳には、よく見覚えがあった。
「なんだぁ〜奈々美かぁ…誰かわかんなかったじゃん」
「へへーっ!!衣装、さっきできたんだ!!」
奈々美は嬉しそうにクルクルとあたしの前で笑って見せた。
ドレスの裾が、空気を含んで柔らかく舞う。
美登里がデザインしたこのドレスは、まるで彼女のスケッチブックから抜け出てきたように目の前で輝いていた。
「ねね、似合ってる!?」
「ハイハイ似合ってますけど…練習の時から着なくていいでしょ。始めるから早く着替えて」
「ええ〜!?いいじゃん!このままの方が雰囲気出るしさ、ね?」
目をキラキラさせてあたしの手を握る奈々美に、しょうがないなぁと口をへの字に曲げた。
やっと解放されたあたしは、どっこいしょと机にカバンを下ろす。
ふと見ると、教室の隅っこに座り、台本にぼうっと目を通している美登里の姿があった。
彼女は、制服姿のままだ。
「……?」
いつもの美登里なら、奈々美とセットで張り切ってドレスを着て飛びついてきそうなものなのに。
美登里の俯いた顔には色味がなく、血の気が引いたように白かった。
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