「どういうつもりなの、結城さん」


職員室の雰囲気は、編入の挨拶で初めて入った時となんら変わっていなかった。

忙しく唸り続けるコピー機の音に、採点するペンの音。

教室のおしゃべりの賑やかさとはまた違う、事務的な騒がしさだ。


「あなたの授業態度は他の先生たちの間でも問題になっているのよ?」


先生は大分イライラしているようだった。催促するように、指がトントンと机を打つ。

はぁ、と生返事をすると、それが気にくわなかったのかそのリズムはさらに速くなった。

「テストはあの点、提出物は出さない、授業中は居眠り…あなた何のために学校に来ているの?」

いくら睨みつけられたところで答えられるわけがなかった。だって何のため、と言われても…目標も理由も持っていない。

問題となっている生徒と先生との共演とあって、職員室中からチラチラと視線が送られてくるのがわかる。先生はまだ延々と文句を言っているようだったが、電源が切れたように何も頭には入ってこなかった。

適当に繕うとか、愛想を振りまくとか。

こういう場面を上手く切り抜ける方法とやらを、あたしは知らないのだ。


黙ったまま俯いていると、先生はもういいわ、と諦めたようにため息をついた。


「…櫻華も、とんだ問題児を引き受けちゃったものね」


吐き捨てられたようなセリフと共に、職員室を後にした。

憂鬱な気持ちばかりが募る。せっかくの昼休みなのに、今日は葵たちとお昼が食べられなかった。


あたしはつくづくこの学校とは合っていないと思う。伝統の重みに押しつぶされて形作られるものになんて、興味はないのに。



ただ唯一の目的があるとすれば、それは"桜の園"だった。


別にやりたいことが演劇というわけではない。ただ、みんなで何かを作り上げていくことに、あたしは何とも言えない充実感を見出していた。


初めてできた仲間。やっと見つけた希望。


あの非日常の空間には、あたしが求める何かがあった。



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