「結城さん。…結城さん!!」
ハッと気がつくと、いつのまにやらクラス中の注目を浴びていた。
教卓には、呆れ顔の数学の先生。ああ、そう言えば一時間目は数学だったか。
ずいぶんぼうっとしていたらしい、飛んでしまっていた意識を取り戻すのに数秒かかった。
「…はい?」
「前に取りにきて。この前に行った小テストよ」
クスクスと所々で笑いが起こる。
きまりの悪い思いで背中を丸めて前に出ると、先生はため息をつきながら一枚の紙をあたしの目の前に突き出した。
「…昼休み、職員室に来なさい」
先生の声が黒いのも当たり前だ。おそるおそる開いたテストに描かれた真っ赤な点数は、とても口には出せないものだった。取ろうと思って取れる点数じゃない。
入学当初から授業にはさっぱりついていけなかった。それに加えて、最近のあたしは演劇のことで頭がいっぱいだったのだ。
ノートはサラ同然のように真っ白だった。
ずっしりと肩を重くしていそいそと自分の席に戻る。そしてふと、違和感を覚えた。
窓際にポカンと抜けたような空席。
…美登里の姿が、見当たらなかった。
「…ねぇ、美登里どうしたの?」
そっとシャーペンで赤星さんの肩をつつき、小声で問いかける。
授業中にだけかける眼鏡の奥、赤星さんの瞳がこちらを向いた。
「具合悪いって、保健室行ったわよ?」
そうか、とホッと胸を撫で下ろした。変な夢を見たからだろう。なんだか胸の辺りがムカムカして落ち着かなかった。
隙間風が、クラスメイトのスカートをふんわり揺らす。あたしのノートの端を、パラパラとめくっていく。
…今日くらいの天気なら、もう夏服でもいいかもしれない。
怒られたばかりなのに性懲りもなく、今日やるシーンはどこにしようかと、あたしは稽古のことに頭を巡らせた。
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