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─夢を見た。
それは編入一日目のもので、世界は咲き始めたばかりの桜の花に彩られていた。
「こちら、東京の学校から編入していらした結城桃さんです」
佳代先生がいつもと変わらぬ穏やかな声であたしを紹介する。
あたしは教卓の前に立たされ、みんなの好奇の目に取り囲まれていた。
生徒たちでびっしりと埋まった狭い教室。しかし窓際の一番後ろの席だけが不自然に一つ、空いていた。
まるでぽっかりとあけられた、穴みたいに。
「席は、えーと…赤星さん、後ろに一つズレてあげて」
佳代先生の言葉に、あれ?と首を傾げた。だって、窓際の席があいているのに。
…違う、あそこには誰か座っていたはずだ。誰だっただろう──記憶を辿ってもうまく思い出せない。
『桃ちゃん』
…ああ、そうだ。
あそこは、美登里の席だ。
「全員揃いましたね。では授業を始めます」
違うよ佳代先生、
美登里がいないの。
しかしあたしがどんなに教室を見渡しても、美登里の丸い頭はどこにもなかった。
………
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