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「よっ!!」
「よっ!!…ってなんでアンタがウチにいんのよ!?」
家に帰るなりあたしを待ち構えていたのは、テーブルの真ん中に積まれた唐揚げと、いつもはつけないエプロンをまとったお母さん。
…プラス、当たり前の顔でテーブルにつき、その唐揚げを頬張っている洲だった。
「いや、ほんと偶然に結城先生と会ってさ」
「懐かしいわよねぇ。洲くんったらこんなに男前になってるんだもの…ビックリしちゃった!」
先生、というのはうちのお母さんのことだ。何年か前まで一緒に通っていたバイオリン教室は、もう今では開かれていない。
お母さんが教室を閉めると決めたのは、ちょうどあたしが東京に発った頃だった。
フリルがあしらわれたチェックのエプロンは、お母さんの年齢をずいぶん若く見せている。めんどくさいからと、めったに揚げ物なんか作ってくれないくせに。
呆れ顔で山積みにされた唐揚げの前に座り、洲に負けじと箸を伸ばした。
「お前もっと味わって食べろよ!ってああ!!二個いっぺんに食うなバカ!」
「うるっさいなぁ〜。ウチの夕飯なんだからあたしがどう食おうと勝手」
ひたすらもぐもぐと口を動かして唐揚げに集中しているフリをした。美登里が変な事を言い出すから、妙に意識してしまう。
「…最近はうまくいってんの?」
「え?何──」
「劇のことだよ」
…気にかけてくれてたんだ。そういえばこの前うまくいかないと散々グチった所だった。
あたしが頷くと、洲は嬉しそうに笑ってくれた。
目の前の洲には、改めて見ても幼いころの面影はもうない。小さい頃は洲のことならなんでも知っていたのに、今ではもう知らない男の人みたいだった。
でも笑った顔は、あたしをどこか懐かしい気分にさせる。
…ドキドキと逸る心臓は、きっとそのせいだ。
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