「その机こっちに運んで〜!!」

「じゃあ今から十分休憩ね。次は二幕の最初のシーンから始めるから」


稽古は着々とうまく進んでいた。

あれから全員で話し合って、演出はみんなで意見を出し合いながら進めていくことになった。

みんながみんな、生き生きと作業に取り組んでいる。やる気がひしひしと伝わってくる空間は、とても居心地が良かった。


しかし熱演するというのは結構体力を使うものだ。ワンシーンごとに、喉の水分はゴッソリと持って行かれていた。

窓辺にあるセット用のソファにどっしりと腰掛ける。その反動でソファが沈み、あたしをぴったりと包み込んだ。

ペットボトルをひっくり返す勢いで水を飲む。自分でも喉が鳴るのがわかる。


「桃ちゃん」


背中から聞こえた声に振り返ると、そこにはにこっと可愛らしい笑顔を見せる美登里がいた。

あたしも笑みを返すと、小走りで隣に来た美登里はそのままちょこんとソファに腰掛ける。いつも思う。美登里の笑顔は、向日葵に似ている。

二人分の重みに、古いソファがさらに沈んだ。


「やっぱ稽古本気でやると疲れるねーっ!」

「今あたしも同じこと思ってたよ」

「あはは、マジで?でもこれ、結構いいダイエットになるかも!」

でもその分食べちゃうんだよねぇ、と美登里はがっくり肩を落とす素振りを見せた。


赤星さんも日に日に上達し、今ではすっかり練習風景に溶け込んでいた。

それに彼女には、前よりずうっと自然な笑顔が増えているように思えた。


「そういえばさ、桃。ずっと聞きたかったことなんだけど…」

「ん?」


美登里の真ん丸い瞳がこちらを向く。

そこに写り込むあたしの影は、ゆらゆらと不規則に揺れ動いた。


「桃ってさ、洲くんと付き合ってるの?」


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