「あ、別に…変な意味じゃなくて、そのまんまの意味っていうか……いや、ごめん」
舞い戻ってきた気まずい沈黙は今日でもう何度目だろう。あたしの顔は自然と苦笑いになっていた。
吹き付ける朝焼けの風は、夜の風と昼の風をちょうど混ぜ合わせたものだ。
ちょうど今自分の髪をなびかせるそれは、その分量が半々であるように思った。
「私…ずっと憧れてたんだ」
赤星さんはそういうと、ゆっくりと顔を上げた。赤く染まった頬は、普段の能面のような彼女の顔よりもよっぽど人間味を持っていた。
「サバサバしてるのに、女の人らしさもあって…みんなから好かれてて。あたしにはないところ、小笠原さんはいっぱい持ちすぎてる」
その言葉は何もかもをすり抜けて、あたしの胸に直接響く。
…恋と憧れは、ひどく似た部類にあるのかもしれない。
誰もが自分にないものを求めている。それを持つ人に強く惹かれるのは、誰しも同じなのかもしれない。
揺らぐ境界線は、きっととても危うい位置にあるのだ。
「小笠原さんみたいになれたら…って、ずうっと思ってた」
「…それ、葵に言ってみたら?」
赤星さんの目は一度大きく見開かれたが、それはやがて弓なりになり、赤星さんはコックリと頷いて笑った。
「そうね…」
やっと登校してきたらしい生徒たち。恒例のおはようございますが校舎に響いて、初めて学校が目覚めたように動き出す。
賑やかになっていくその中で、あたしたちは二人、初めて隣に並んで始まりを迎えていた。
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